A.I.R.三陸芸能短期留学2019

A.I.R./三陸芸能短期留学

三陸国際芸術推進事業2019
アーティスト・イン・レジデンス 
三陸芸能短期留学

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概要

2019年10月より11月にかけて、公募より選ばれた様々なジャンルのアーティスト6組が、大船渡市と陸前高田市で1ヶ月間(1組最大二週間)に渡り地域の方々と交流し郷土芸能を習いました。
11月3日は、大船渡市日頃町石橋地区のお祭りに剣舞の演奏などに参加。陸前高田市や大船渡市の芸能や風土から得たものを糧にしたアーティスト自身の作品制作を滞在中から開始し三陸国際芸術祭・会場での発表を予定しておりました。残念ながら 2020年3月14日・15日に予定していた発表会はコロナウィルスの影響で中止となりました。
三陸の地域活性化のため、三陸の文化をより多くの方に知って頂くために、また、発表できなかったアーティストの作品発表を地域の方々に必ずお観せする日がくると信じて、本企画を永続的に実施していきたいと考えております。

選考について

本年は、2019年7月31日までの約1ヶ月間、WEBやSNSを通じてアーティストの公募をしました。
28組と多くのアーティストに応募していただきました。8人の選考委員によって各々のプロフィールや応募動機、熱意や発展性を基準として厳正なる審査を致しました。段階として10組に絞り電話で想いを伺い、最終的に6組が選抜されました。

参加アーティストと志望動機

 北野留美(イラストレーター)

町歩きの冊子「オバケダイガク」を製作(B6版16ページ)。身のまわりにある[あった]暮らしの道具、建物、習慣、知恵などを書き留めておこうという意図。手がきの文章に加え、随時イラストで解説していくというもの。書店、雑貨店等で販売中。近年はWS形式にしてお客様にも体験して頂くという活動をおこなう。
◯志望動機:私の住む埼玉県東部杉戸町の近隣には獅子舞を稲の実りの予祝として行っている集落が多数あります。全国の類似する芸能の分布図を作り各地域の舞を観に行き相違点などを調査してきました。本留学で部外者が触れることの難しい三陸の集落の行事や芸能を体験し、舞い・謡い・衣装・道具・場づくり等がどう伝えられているかのセオリーを抽出できたらと考え応募しました。

 佐藤公哉(音楽家・作曲家)

様々な地域性、時代性の入り交じる室内楽を得意とし、国内外で作曲、演奏活動を行う。祖母の詩吟、読経や賛美歌を原体験とする声の表現で評価を得る他、ヴァイオリン、ビオラなどを演奏。映画や演劇の劇伴、即興、地域に密着したプロジェクトも手がける。東京藝術大学音楽環境創造科卒業。長野県松本市在住。
◯志望動機:三陸の郷土芸能が受け継いでいる身体性、リズムに強い興味があり応募しました。民族音楽を含めた様々なスタイルを組み合わせて音楽制作を行っていますが、活動を始めた当初から、自国の伝統文化との繫がりの薄さを問題意識として持っていました。

 渋谷裕子(ダンサー・振付家・俳優)with 大部仁(音楽家)

美術作品、生演奏などと共に創作、活動は多岐にわたる。NPO法人 すんぷちょ主催、赤ちゃんからお年寄り、障害のある方も一緒に踊るワークショップのファシリテーター。同主催作品、自閉症児のための多感覚演劇「ちいさなうみ」出演。幼児向け演劇「おはようシアター」に所属。本年より尺八・大部仁と作品作りに入る。
◯志望動機:私は東北人として三陸沿岸の芸能や暮らしそのものを学び研究し文化で心の復興に関与したいと望んでいます。今回のA.I.R.を契機に被災地の郷土芸能を学び、三陸の宝になるようダンス+音楽作品を創造したい。また、今回だけではなく持続的に集落の方々と結びつきながらじっくりと郷土芸能を学んでいきたいと考えています。

 武田力(演出家・民俗芸能アーカイバー)

滋賀県の朽木古屋集落で古くから継がれてきた六斎念仏の継承事業に関わる。こうした民俗芸能の構造に着想を得て、糸電話、警察署員からの説得、たこ焼きなどを素材に現代に作品を展開。民俗芸能と芸術との互恵的な関わりから、社会課題を観客とともに軽やかに思索する作品を展開している。
◯志望動機:私自身、現在2戸のみが定住する朽木古屋集落の芸能に関わっています。限界集落において、現状のままその芸能を存続させることは困難でしょう。芸能に限ることのない集落への新たな「入口」を見出す必要があり、それは芸能と同様に時代に追いやられた集落の風習や生業の再評価にあると考えています。それに際して、他の地域における芸能の現状やそれに関わる芸術の在り方を参考にしたいと考え、応募しました。

 日比野桃子(ダンス・パフォーマンス)

2019 年に東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科を卒業、秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科在籍。人の行為、営み、踊りという身体の状態に関心がある。4 月から秋田に住み、自身の身体と、環境に対するその振舞いを観察する。それを‘おどり’と呼ぶことについて考えている。
◯志望動機:伝統芸能を習うにあたっての、自身の身体の存在のさせ方と、それによる「地域」の変容に関心があります。また、芸能=人の営みを「習う」ということ、すなわち自身の身体を媒体として人の営みを記録・保存していく行為は、現在の私の活動の中でも大きな意味を持ちます。東北特有の自然や信仰への関わり方についても触れ、考えたいと思います。

 まだこばやし(ダンス・和太鼓奏)

玉川大学芸術学部和太鼓チームの卒業生であるダンサー・和太鼓奏者により2014年に結成。全員がダンスと和太鼓演奏を兼任するパフォーマンスで、都内を中心に各種イベントや芸術祭への出演、ワークショップで活動。迫力と冗談と原始的な力を武器に、和太鼓演奏の身体性と音楽的身体が交錯する力強い作品を創作している。
◯志望動機:私たちは2017年に三陸国際芸術祭に呼んで頂き、アートによる復興を目指すこの芸術祭の意義の高さ、三陸各地の芸能団体の皆様のエネルギーとその美しさに感動して東京に帰って参りました。とりわけ一度体感した三陸の芸能を、いつかきちんと習い、基盤にした作品を作るというのは長年の悲願でした。三陸に生きる芸の命を、私たちなりの新たな表現で伝えられる経験を、是非ともさせて頂きたい。


滞在スケジュール

アーティス・レポート

受け入れ団体からのコメント

大船渡市
赤崎町・永浜鹿踊り 金野彰会長

◯受け入れにつきまして永浜鹿踊りの舞手は大変刺激になり、保存会も益々盛り上がりました。ありがとうございす。皆さんの発表を楽しみにしています。    

日頃市町・石橋鎧剣舞 鈴木昭司氏

◯数百年継承して来たこの地域の芸能は特別なものだと思っていましたが、彼らと出会い、現代の音楽や踊りにも共通した根っこがあると知りました。今後も粘り強く続けてほしい企画です。 

三陸町・金津流浦浜獅子躍 古水力会長

◯とても熱心に稽古に耐えてくれた。さすがそれで飯を食う芸術家だと感じた。この短い時間でよく踊れていたと思う。経験したものを糧として彼らがどのような表現をするか楽しみにしております。                

陸前高田市
生出神楽

 ◯郷土芸能に興味を持ってきてくれたのが良かった。若い人は覚えが早いと感心した。このような人がもっと増えていけば良いなと思った。どの芸能にも言えることだが、歴史やルーツ、何故その土地で生まれたのか等分かったうえで習得していった方が深い理解につながると感じた。 

上ノ坊田植踊り

◯一生懸命真剣になって習ってもらって良かった。自分たちが年配となり、踊れなくなったものを代わりに踊ってくれたのが良かった。伝承できたという実感がある。忘れかけていたものを思い出せるきっかけとなった。楽しいひと時だった。

長洞御祝い 

◯熱心に聞いたり、調べたり一生懸命取り組んでもらえて良かった。ちょうどお祭りだったのも良かったと思う。他の郷土芸能にもぜひ触れていってほしい。

今後の展望

地域コーディネート(陸前高田市) 越戸園佳

今回A.I.R.を実施したことで、市内の郷土芸能団体の方々の士気が上がると同時に、自分たちが伝承している芸能が良いものであるということを再認識する機会となった。
今後も引き続きアーティストの受け入れを行い、そのような意識を醸成させていくこと、最終的には市内全体の郷土芸能に対する士気を上げることを目標に取り組んでいきたい。
今後もA.I.R.事業と市内の郷土芸能が継続していくために、市内や他地域の方々に陸前高田の郷土芸能を知ってもらう、見てもらう機会の創出を行っていく。そして事業を通して郷土芸能の在り方、残し方についても模索していきたい。また今後もアーティストの受け入れを行うため、他地域と連携しながら年に数回の受け入れを実施する等、事業を継続できる仕組みをつくっていきたい。

地域コーディネート(大船渡市) みんなのしるし 前川十之朗

大船渡市の郷土芸能の団体は、2013年より海外や国内のアーティストの受け入れをおこなって来ており、他の地域より受け入れに慣れており芸能を教えるスキルが高いと感じた。
陸前高田市は昨年度(2018年度)から外部のアーティストの受け入れを始めたばかりで、大船渡市と並行しておこなったことでかなり受け入れの参考になったようだ。
大船渡市ではしっかりと芸能を習うことができ、陸前高田市では地域の方々とのふれあいを通して風土や地域の成り立ちなど、芸能以外のことも知ることができた。そういった意味では、地域コーディネーターの個性も反映され、場所によって習うことが違ってくることも芸能留学の面白みだと感じている。
A.I.R.事業を永続的におこなっていくことは、宿泊設備・クリエーションの場づくり・収益化も含め簡単ではないと感じているが、マルゴト陸前高田(陸前高田市地域コーディネイト)の方では、今後は研修旅行や修学旅行に組み入れて交流人口を増やしていくようだ。観光ではなく短期滞在は移住促進にも繋がっていく。
大船渡市と陸前高田市は、隣町だが、産業基盤や芸能団体の横のつながりなど、全く違った環境なので、今後どう連携していけば良いか、さらに話し合っていく予定だ。
芸能団体やアテンドとして動いてくれたほとんどのスタッフもこの企画に賛同しており、永続的におこなっていきたいと話している。ここ数年は、公的な補助や三陸国際芸術祭を舞台に、数年後には自立し文化と経済(観光)とを繋げていければ地域の復興に繋がると考えている。

文化庁 2019年度戦略的芸術文化創造推進事業
主催:文化庁、三陸国際芸術推進委員会
共催:三陸まちづくりアート実行委員会 
協力:大船渡市郷土芸能協会 

            

滞在中の様子

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